イーストコーストの風景

East Coast Pictures

オリジナル
グレード:
17:00
最終更新: 2025年9月27日

作曲者・編曲者

作曲: ナイジェル・ヘス(Nigel Hess)

解説

ナイジェル・ヘス(Nigel Hess, 1953-)が1985年に作曲した吹奏楽のための組曲《イーストコーストの風景》(East Coast Pictures)は、アメリカ東海岸での旅の印象を題材にした3楽章構成の作品です。
英国青少年吹奏楽団(現・ナショナル・ユース・ウィンド・オーケストラ・オブ・グレートブリテン)の委嘱によって誕生し、同年4月にロンドン郊外で初演されました。
作品の着想について、ヘス自身は「この地域は地理も人々も実に極端である」と述べており、その多面的な魅力を3つの音楽的風景画に仕立て上げています。
日本では「イーストコーストの風景」として紹介され広く定着していますが、原題をカタカナで表した「イースト・コースト・ピクチャーズ」や「東海岸の風景画」といった呼び方も存在します。

第1楽章:シェルター島(Shelter Island)
ニューヨーク州ロングアイランドの東端に浮かぶ小さな島、シェルター島。夏には避暑地として賑わいますが、ヘスが描いたのは観光客のいない冬の姿です。
冒頭のフルートによる細かい三連符は冷たい雨風を思わせ、低音楽器の厚い響きが荒れた海の空気を表現します。
その中でトランペットやオーボエが奏でる旋律は、静かな孤独の中に感じられる温もりを象徴しているようです。楽章は大西洋の果てへと消えていくように静かに閉じられ、後の展開への余韻を残します。

第2楽章:キャッツキル山地(The Catskills)
ニューヨーク州北部に位置するキャッツキル山地は、雄大で静謐な自然に包まれた地。
楽章冒頭の金管によるコラールが、山々の荘厳さを思わせます。オーボエの旋律に導かれるように、コルネット独奏が伸びやかに歌われる場面は、本作でも特に印象的な瞬間です。
木管と金管の室内楽的なやりとりから、全合奏の壮大なクライマックスへと広がりを見せますが、その後は再び静けさに包まれていきます。
自然の力強さと穏やかさを対比的に描くことで、山地の神秘的な魅力を音楽化しています。

第3楽章:ニューヨーク(New York)
最終楽章は、世界都市ニューヨークの喧騒とエネルギーを描いた音楽。快活なテーマは多彩な打楽器によって彩られ、都会の雑踏を表現します。
ギロやマラカス、フレクサトーンといった珍しい打楽器も登場し、リズムに豊かな色合いを加えています。
一転してホルンやユーフォニアムが穏やかな旋律を奏でる部分は、まるでセントラルパークの緑に一息つくかのよう。
その後は再びスピード感あふれる展開となり、壮大なクライマックスに突入します。全休止の静寂を破るように響くサイレンの効果音は、街の現実感を鮮烈に印象づける場面です。

作品の魅力

《イーストコーストの風景》は、それぞれの楽章が独立して演奏可能でありながら、全体を通して一つの大きな旅の物語を形成しています。
荒涼とした海辺、静謐で雄大な山地、そしてエネルギッシュな大都市。その三者三様の姿を描くことで、アメリカ東海岸の多彩な魅力が浮かび上がります。
ヘスの洒脱なオーケストレーションと、情景を鮮やかに描く表現力は、多くの吹奏楽団に愛され続ける理由と言えるでしょう。

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参考サイト

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